近代的ハーレム作品「冴えない彼女の育て方」

あらすじ

桜が舞い散る坂の上で、高校2年生の安芸倫也は白いワンピースの美少女に出会う。その出会いに運命を感じたオタク少年の倫也は、彼女をメインヒロインにした「最強ギャルゲー」を制作することを決意する。

そこで、美術部のエースにして超有名同人作家の澤村・スペンサー・英梨々と、学園一の才女にして超人気ラノベ作家の霞ヶ丘詩羽に協力を仰ごうとする。

そんな中、あの時の「美少女」が意外な人物だったことが判明する。*1

 

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  冴えない彼女の育て方
話数 全12話(+1話)
制作会社 A-1 Pictures
監督 亀井幹太
評点 77点

 

視聴に至る動機

  友人の「ゆーさく」さんからの勧めもあり視聴することに。作品の名前自体は知っていて有名な作品だと認識している。ラノベの表紙絵が非常に魅力的である。アニメ絵よりも圧倒的に好きだ。2次元に描かれた絵なのにその細かな描写から立体を感じさせる。そして、とうとうやって来ました。ノイタミナ枠!自分の大好きな放送枠でギルクラや東のエデンPSYCHO-PASSといった名作を輩出してきた枠であり、先入観で良作を期待してしまう。Animationを逆さにしてNoitaminaとし、アニメの常識をひっくり返すという意味が込められている。

 

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映像特典?

アマゾンプライムで見たのだが、0話が合ったので素直に0話から見ると話しについていけなかったのでいったん飛ばして1話から見ることにした。この0話ってのは所謂サービス回に当たると思うのだが、これは当時もこの順番で放送されたのだろうか?それとも何かの特典だったのか?知ってる方がいたら教えてください。

 

 

オタク主人公ハーレム作品?

  この作品は典型的なハーレム作品だ。それに加えてアニメ年間200本世代に入ってから割と昨今定着しつつある主人公がオタクという作品である。このオタクが主人公になるという作風。いつごろから定番化してきたのかが気になってきて考えてみたのだが(主にフォロワーさんたちに教えてもらった)2008年くらいからなのかなと思う。神のみぞ知るセカイとかが有名だし見たことがあるのだが、オタクというよくカーストにおいて底辺の扱いを受け陰キャや引きこもりといったものとむずびつけられて描写されることが多い存在が(もちろんそうじゃないこともある)アニメの社会的認知や、本来サブカルチャーという名前を関してた文化がジャパンカルチャーとしての代表的地位を獲得しつつある情勢の変化に伴ってそういったものが受け入れられてきたのかもしれない。とまあ、細かいことは置いといてこの作品一見ハーレム系ラブコメかと見せかけて実はそれ以外にも要素をはらんでいる。

 

それはクリエイターの本質である。

 

この作品は主人公をめぐる恋愛模様を背景に敷きながらそこに恋愛ゲームを作成するというクリエイターとしての主人公の苦悩と成長というものを熱く描写している。ここが他のハーレム能天気作品と一線を画すところだと自分は考える。恋愛と作品作りというものの間で揺れる心情だったり、作品をつくることの大変さを描いていたりする。

 

~~~~~~~~~~~~~~~以降ネタバレを含む~~~~~~~~~~~~~~

 

キャラクター達の個性

 この作品実はテンプレートな形式を大いに利用している。作中において❝王道は面白いから王道なんだよ❞というセリフが存在する。このメタ的な発言が表すようにこの作品には王道なツンデレお嬢様と黒髪ロングでクールな先輩に無感情系地味クラスメイトという使い古されてきたキャラクターを用い、展開も王道を利用している。人はギャップというものに興味を惹かれるものであり、王道とはそのギャップを最大限に活かすということだと思う。そしてそれを際立たせているのはその描写の仕方である。それぞれのキャラクターについて紹介していこうと思う。

 

霞ヶ丘詩羽

 俗にいうクーデレというキャラクターに俗すると思う。黒髪ロングで清楚なスタイル抜群のキャラクターが先輩ってのはありがちであり、そのクールさと先輩という立場から強く主人公に対してアプローチというのも理想の先輩そのものである。

 故に後述する英梨々と対照的な存在であり、その容姿端麗さを余すことなく描かれている。彼女は作家という立場と恋愛という感情の間で揺れ動き恋愛を選んだが鈍感主人公に会えなく撃沈といった過去を引きずりながらも主人公を諦めきれない一人の女の子であるということが本当に可愛い。クールで才女、容姿端麗という設定に対して大胆なアプローチと頬を赤らめながらのテレなどのギャップが最高の魅力であり、屋上でのメロンパンを食べさせてもらうシーンなんかはその表現の極みみたいなものを感じる。これを顔を映さずに足で描写しているところとか素晴らしい。

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 このクーデレな先輩を茅野さんがまた見事に演じ切る。茅野さんはデビューしたあたりから新人とは思えない演技の素晴らしさに定評があり、幅広い役柄をこなすことで有名だが、彼女は母性を感じさせるような包容力を醸し出すのが本当にうまい。ツイッタースラングでいえば❝バブみ❞というやつであるが、そんなチープ言葉で表現するのはもったいないぐらいだ。声優とは本当に恐れ多いものである。

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澤村・スペンサー・英梨々

 典型的なツンデレ幼馴染でかつお嬢様。途中からその表向きな猫かぶりはどこかへ行ってしまった。なんといっても主人公に噛みつく(物理的ではなく言葉尻を捉えて)時に描かれる八重歯のようなものが可愛い。その圧倒的ツンデレ描写を支える八重歯が彼女をより一層際立たせている。そのツインテを振り回し主人公を攻撃する様はグリザイアのみちるさながらであり、ツンデレといえばいつからかできた風潮の金髪お嬢様というテンプレからも多聞に漏れない。

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 このキャラクターはツンデレというそのものがギャップを包含している。ツンデレというキャラクターは小学生の男の子にありがちな好きだからこそいたずらしてしまうような本当は好きなんだけど恥ずかしいから素直には言えないものであり、これが本当に可愛い。自分の趣味嗜好としてツンデレというものが本当に好きなのだが、このツンデレというキャラクターを最も描写できるのは小説だと思う。というのも小説というはアニメや主人公視点のゲームと違って他のキャラクターの内面描写も文字として起こされる。これによりツンデレキャラクターのツンに相当する行動の背景に存在するデレな感情がはっきりと文字に現れることがあるのである。これがたまらないので原作もいつか読んでみたいと思う。

 大西沙織さん演じるツンデレをおそらく初めて拝見したと思うのだが非常によかった。また他作品でも見かけることを願うばかりだ。

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加藤恵

 実は今回一番興味深かったのはこのキャラクターである。感情の描写が極端に少なく、地味でありながらそこそこに可愛いという難解な設定を演じきった安野さんに称賛を送りたい。感情の描写が少ないからといって口数が少ないというわけではなく、平坦で抑揚のないトーンでありながらその明らかに素人とは違うものを感じさせてくれる演技に自分が声優志望だったら声優ってなんなんだ~と挫折に追い込まれていたかもしれない。というのもコナン映画をはじめとしたさまざまな作品で見かけるゲスト声優の演技を聞いてこの作風に合わない不快感は声優さんたちとの演技力の差でありそれはどこから生まれるのか、という問いに対して息遣いと抑揚だと考えていたのだが、その抑揚を極端に抑えた加藤というキャラクターでも素人じゃない雰囲気をだせるというのは声優の演技を構成しうる要素のなかで必ずしも抑揚というのは重要ではないということを示したといえる。本当にすごい。

 このキャラクターにおけるギャップは、ラノベやゲームに興味がなかった女の子が主人公の熱意にあてられて、興味を示し、ゲーム制作に鋭意をもって挑むという変化である。特に終盤の美智留から❝でも、ぶっちゃけ仲間の方はたいして本気じゃなかったよね?❞という問いかけに対する答えのような徹夜で頑張る描写はだれもが胸熱くなったはずだ。

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総評

 この個性的で立ったキャラクターを素材に主人公のクリエイターとしての成長を描く作品となっている。学校行事を特に描写しないことで他のラブコメとも違ったテイストを醸し出している。また、描写がエロい。OP一つとってもアングルとかがエロい。直接的な描写ではなく、見えそうで見えないをふんだんに利用した描写。視点がいいというかよく理解されてる。故にキャラクターの魅力も出ている。色が薄めで線とかに色が入るシーンもあるがここは好みが分かれるかもしれない。

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 原作者がライターとしても有名で「企画屋」に所属している。有名なとこだとWHITE ALBUM2とかにかかわってる。ゲーム制作者ならではのルートなどに関する話や、時々現れるメタ的な発言。この作品は作中に制作しているゲームとアニメの世界、そしてそれを見る我々現実といった三層構造になっていて、作中でのゲーム作品に対する問いかけが比喩として使われてたりと面白い構造になっている。詩羽先輩の❝さぁ誰を選ぶの?主人公君❞なんかはその最たる例だろう。

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 坂道での運命の出会いから始まるこの作品は物語の区切りのシーンで坂道がまた登場する。この坂道で完結している構成を美しいと思うし、坂道が出てくるだけで胸に呼び起こされるものがある。

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最後に自分の推しは誰になりそうかという問いに対しフォロワーの方々に聞いてみたのだが…

 

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正解は …

 

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*1:公式HP参照